写真左がAPS−C用の沈胴式標準ズームPZ16〜50mmF3.5-5.6。前玉径が小さく、さらにレンズの前枠寄りにあることがワイドコンバーターとの相性の良さにつながります。写真中が0.75倍ワイドコンバーターVCL-ECU1で対象外のレンズにそのまま装着することはできず、さらにズームレンズには強度上の懸念がありますが、装着できるように工作しました。写真右はワイドコンバーターの広い視野からの弊害光を遮光するためにボール紙で作ったレンズフードです。
ワイドコンバーターVCL-ECU1は、E16mmF2.8およびE20mmF2.8専用です。そこでPZ16〜50mmに装着できるようにするために、そのフィルターネジを利用します。PZ16〜50mmのフィルター径が40.5mmなので、ワイドコンバーターの2爪バヨネットを固定している4カ所のビスでそれを取り外し、そこに52→40.5のステップアップリングにビス用の穴を開け、同じビスで固定。PZ16〜50mmの電動ズームによるデリケートな前枠部分に125グラムもあるワイドコンバーターを取り付けるのは構造上の危険があるのであくまでも自己責任で装着や取り扱いは丁寧に行なっています。なおこの写真には写っていませんが、4本のビスの頭が標準ズームの前縁部分を傷つけないよう、土星の輪の形に切った薄いボール紙を間にはめています。
ボディはワイドコンバーターと同世代のNEX-7で、PZ16〜50mmズームにワイドコンバーターを取り付けたところです。ねじこんだ状態によってはワイドコンバーターの花形フードの停止位置がずれたりしますが、これは構いません。ただ、ずれたままでは見た目が良くないのでレンズフードをかぶせることで隠します。またレンズフードによってワイドコンバーターが取り込む周囲からの弊害な光が遮光できます。なおレンズフードにはカーボン柄の化粧シートを貼り、さらに62mmのフィルターネジを接着しました。
カメラの電源を入れ、ズームの鏡胴が伸びた状態です。ワイドコンバーターを装着することでボケ描写が柔らかくなるのはワイドコンバーターによってマイナスの球面収差が発生し、これがマスターレンズをややソフトフォーカスレンズのような描写にするからです。この球面収差によってフォーカスがもっともシャープなところはコントラストが低くなるのでコントラスト検出のAFでは後ピンになってしまいます。そこでMFになりますが、MFアシストに設定しておくとフォーカスリングを操作すると画面中央が即拡大されるのでフォーカシングに問題はありません。そして撮影した画像をパソコンの画像処理でシャープさを若干プラスにすることで見た目には十分なシャープさになります。
ズームがワイド域では撮影視野が狭く、画質も良くないので使えませんが、焦点距離が35mmからテレ端50mmの間では画質、ボケ描写ともに良くなります。そして35mmと50mmでは画質とボケ描写に違いがあり、35mmではフォーカスを合わせたところはハロがほとんどなくて鮮明ですが画面周辺における後方微〜小ボケの均等性が低下します。50mmではフォーカスを合わせたところは球面収差によるハロによって鮮明さが低下しますが後方微〜小ボケが上質で全画面で均等です。この違いはマスターレンズであるズームの各焦点距離に対するワイドコンバーターの相性によるものです。なおNEX-7ではレンズ側の電動ズームとは個別にボディ側のデジタルズームが使えるので35mm時にデジタルズームでボケの均等性を高めることができます。
テレ端50mm+ワイドコンバーターによる画像
絞りをF7.1にし、雨に濡れた苔を接写したもので、そこにいた小さなアリの部分を拡大したのが左の画像でなかなかのシャープさです。そして後方微〜小ボケが滲んでとても柔らかく、これは通常のレンズでは得られない見事な後ボケです。なおワイドコンバーターを組み合わせると近接性能が若干向上し、テレ端50mmでは横約8cmが画面いっぱいに写せます。
CAPAのコラムに掲載した横浜・大さん橋からの冬のイルミネーションの類似画像で、白い枠で囲った部分を拡大したのが左の画像です。手前の花にフォーカスを合わせると遠景がわずかにぼけますが、それが滲むことから観覧車の色をはじめ点光源が柔らかく再現されます。しかもこの微ボケが全画面でほぼ均等です。この心地よいボケ描写こそが、PZ16〜50mmに敢えて重いワイドコンバーターを組み合わせた狙いです。なおパソコンで若干シャープさを加えています。
名古屋の久屋大通公園フラリエの回廊を撮影したもので、パソコンでシャープさを若干加えています。ワイドコンバーターを装着しても画質やディストーションに問題はなく、そして何より背景の微〜小ボケの柔らかさが素晴らしいです。
ワイドコンバーターはあくまでもマスターレンズ専用で、それ以外のレンズに組み合わせることはメーカーにしてみれば迷惑な話です。画質は良くないし構造上の問題もあります。今回の実験でもテレ端ではコントラストが低下し、PZ16〜50mmズームには構造上の負荷をかけています。しかし後ボケが驚くほど良くなるのですから、「写真レンズはシャープさよりも柔らかいボケ」が信条の私としては、この上ないほど楽しいレンズになりました。しかも、10年以上前のレンズが見事なボケ描写で蘇ったのですから。