写真レンズに必要な解像力は、人間の目の分解能と写真を鑑賞する条件から決められています。35ミリ判カメラではフィルムや撮像素子上で1/30mm(0.03mm)以下はシャープに見えることから、1/30mmを許容錯乱円または許容ボケといい、被写界深度もこれを元に導き出されています。そして白と黒の線で組み合わされた解像力チャートが、35ミリ判用のレンズでは1mmに30本解像していればよく、レンズデータのMTF曲線の30本/mmのグラフから、微細な被写体に対するコントラスト再現性による結像性能がわかります。
デジタルでは撮影した画像がパソコンで容易に拡大できることから画素数は多いほどいいと歓迎され、これに合わせてレンズの解像力も高いほどいいとなってしまいましたが、これでは際限がありません。最近、被写界深度表示のないレンズが増えてきましたが、これはデジタル一眼の高画素化と、それに対応してレンズの解像力が高くなったことから、許容錯乱円の定義が意味をなさなくなったためです。
初期の画素数の少ないデジタルカメラの画像はフィルムには及びませんでしたが、600万画素になると通常のフィルムに並び、2400万画素になると35ミリフィルムを遥かに凌駕する情報量をきれいに記録できるようになりました。
デジタルカメラで撮影した画像をインクジェットプリンターなどでプリントする場合、プリンターの出力解像度は200dpiで十分です。これはプリントした写真を25cmの明視の距離で見る場合、人間の目の分解能からプリント上では0.16mm以下はシャープに見えることから、このときの出力解像度は160dpiになるので200dpiであれば十分余裕があります。この200dpiでA4にプリントするのであれば400万画素あればいいことになります。
趣味の写真を自宅でプリントする場合、最も大きなサイズはA3ノビですが、そこに200dpiでプリントするには3804画素×2590画素=約985万画素となり、1000万画素が趣味の写真における標準画素数と考えることができます。しかもA3ノビのプリントはやや離れて見るものですが、それを明視の距離の25cmに近づいて見ても十分なシャープさなのです。
2400万画素のデジタルカメラで横位置で撮影した画像から、同じアスペクト比で縦位置にトリミングしても余裕で1000万画素あります。このトリミング対応の高さから、デジタル一眼の画素数は2400万画素あれば十分というわけです。趣味の写真とはいえ少しでも高精細に記録しておきたいという心情もありますが、2400万画素であればパソコンによる画像の管理や閲覧も軽快にできますし、HDDへの保存のための容量も少なくてすみます。
これは3段階の画素数のデジタル一眼で、30本/mmとその前後の解像力チャートを撮影し、拡大したものです。600万画素のカメラで35ミリ判カメラで必要なミリ30本を解像しており、斜めではミリ42本のチャートではジャギーが見られますが、ミリ30本ではその影響もありません。黎明期のデジタル一眼レフは600万画素でしたが、これで十分撮影できたことが、このチャートからもわかります。
拡大部分の画素数は735×518画素ですが、実際にこのA3ノビのプリントを明視の距離で見ても十分なシャープさです。このようにプリントをすることで必要な画素数の概念を知ることができます。プリントをせずに、ただパソコンで拡大していると、際限のない底無し沼に落ちていくようなものです。